ブギーポップ本編も20作品目ということですが、内容はいつものブギーポップといったところ。
“炎の魔女”霧間凪を取り巻く重要人物、凪のサポートを務める羽原健太郎と“レイン・オン・フライデイ”にして<傷物の赤>九連内朱巳が対峙する、ある種で初期のブギーポップ感のあるストーリー。
能力者同士のバトルも控えめ、MPLSは魔女戦争のようなトンデモでもないいつもの感じと、やや物足りなかった。特に正義の味方の傍にいながら、自身の正義に懐疑的であり、しかし心のどこかで憧れは抱いているという、実に上遠野浩平感のある羽原が掘り下げられないあたり、スッキリしない。
物語的にはレインが主役といった感じで、統和機構で出世しすぎて立場が変わってきた彼女が世界との関係を考え直すきっかけのようなお話でした。
ハートレスレッドでも思ったけれど、やっぱりレインは萌えキャラだな、といったところ。地位を利用してかつての自分と似たような境遇の子供を探して保護して、彼らの成長を見て涙ぐむ、といった一面を見せてくれます。
しかしそれが想定を越えて上手く行き過ぎてしまう辺りが、レインの優秀さというか、運命に気に入られすぎている不幸なところというか。
世界の敵が明確に存在しないのも、今回のカタルシスに欠けるところ。霧間凪と同じ【死神に見捨てられた】存在が、ちょっと観念的すぎたのかもしれない。
しかし、レインを前にブギーポップが示した【世界にはどうしようもないことがあって、皆それに対してこういう姿勢をとっているけどそれではダメで、それを自覚できた奴が変わっていく】という、上遠野浩平流の世界との向き合い方みたいなものは相変わらず面白くて好きな感じ。
あとがきはいつもの感じながら、何故自分が小説を書くのか、といったかなり重要なことがやはり明確な言葉にはせずに書かれていて、それを読んでやっとこの巻で何が言いたかったのか分かったような気がしました。気だけですが。
更に複雑な立場になることが示唆され、ブギーポップとの邂逅も果たしたレイン・オン・フライデイが今後どうなるのか、魔女戦争を終わり、ブギーポップシリーズはどこに向かうのか、楽しみにしています。
そして来年はブギーポップ20周年ということで、何かあるといいんだけど。