2017年5月31日水曜日

感想 長谷敏司 My humanity

読んだ。大変面白かった。
伊藤計劃的なSFが読みたくて、ラノベ出身の筆者ならSF初心者にも読みやすかろうと手を出したが、大変良かった。
特に最初の二作、地には豊穣とallo,toi,toiが素晴らしい。
全てに描かれるのは発達した技術が社会を変え、個人を変える様。逆セカイ系とでもいえばいいのか、人類の手に余る技術が世界を変質させて、社会の一個人をなんらかの状況に陥れる。という感じ。
円環少女で徹底してロリヒロインばかりを書いてきた筆者がallo,toi,toiを書くというメタ的な興味深さもありこの作品がイチバン印象に残った。監獄というマッチョな理屈に支えられる暴力の世界に突然やさしさを持ち込めばそりゃそうなるだろ、という、後味の悪さも凄い。
Hollow Vision の煙草をスイッチに動く霧状端末、というアイディアがすげーカッコいい。ラストシーンの無常観たるや。BEATLESSも読まねば、と思った次第。
父たちの時間もまた、ラストシーンが寂しい。何年か前から流行っている感のある、人間というシステム・脳というモジュール、という考えで作られた物語はどれも得も言われぬ物悲しさがある気がする。話は暴走ナノマシンvs科学者という構図にも関わらずその内容は、生物的に考えた場合の『父性』が人類の制御を離れて自己進化を遂げたナノマシンを通して語られるという奇妙な短編。人間が感情を持ちながら生物である以上システマティックに理解できてしまい、感情があるからこそそれがナノマシン越しに見えた時に渦巻く感情はなんとも。

2017年5月6日土曜日

感想 上遠野浩平 パンゲアの零兆遊戯

上遠野浩平先生の最新作、パンゲアの零兆遊戯を読んだので感想を。
発売日に買ったのにずいぶん積んでしまった。あらすじは以下の通り。
エスタブと呼ばれる、未来視を持つと呼ばれる超人によって競われる“パンゲア・ゲーム”。勝者が世界経済を動かすと呼ばれるこのゲームに、かつて前人未到の連勝記録を持ちながら消息を消した伝説のプレイヤー・零元東夷が復帰する。彼を復帰させた少女・生瀬亜季と共に、生き詰まる死闘の幕が上がる。
いつも通りの上遠野浩平で、いつも通り面白かった。
複数シリーズを持つ筆者ですが、今回は独立したお話でした。一応登場する名称には同じ出版社から出ている『ソウルドロップシリーズ』のみなもと雫とサーカム財団が出てきますが、基本的に知らなくても問題ないと思います。
ストーリーは帯にあるような頭脳戦ではなく、未来を見るとはどういうことか、憧れとは何か、勝負とは何か、といった感じのお話。いつもの作品以上に抽象的で、超越者しか出てこないためわかりにくいですが、そこはこの筆者の独特の文体で上手く丸め込まれている気もする。
それぞれのエスタブとの勝負がそれぞれ戦略というより、別々の勝負論・勝利論になっているのも特徴的。そして終盤、零元東夷の正体が明かされてからの展開はお見事。
謎を残したまま死んだみなもと雫の意思を継いだ生瀬亜季が見つけた戦う理由、未来を見るという一つの道は上遠野浩平流のどうしようもないモノへの受け入れ方や、天才描写が満載で楽しい。
零元東夷のセリフも、一つ一つやたらと含みを持たせていて読んでいて楽しい。
ストーリーの構成や展開を楽しむよりは、セリフやキャラの行動からどこか読み手が欲している何かを見つけ出すような、そんな楽しさがある小説でした。
あと、表紙がやたらカッコいい。女性向け小説のようなイラストに流行りの歴史小説のようなフォント。

零元東夷の再登場を予感させるラストの描写に、作者の著作を全部買う一信者としては期待せずにはいられません。遺志を継ぎそれを果たした男が見つける次のゲームは、そしてみなもと雫が育てる生瀬亜季の未来は、楽しみにしています。

以上。

なんと、次の本が6月に出る様子。SFマガジンに乗っていた短編がまとまるようで、彼方に竜がいるならばといい短編は入手しずらいので有り難いところ。