伊藤計劃的なSFが読みたくて、ラノベ出身の筆者ならSF初心者にも読みやすかろうと手を出したが、大変良かった。
特に最初の二作、地には豊穣とallo,toi,toiが素晴らしい。
全てに描かれるのは発達した技術が社会を変え、個人を変える様。逆セカイ系とでもいえばいいのか、人類の手に余る技術が世界を変質させて、社会の一個人をなんらかの状況に陥れる。という感じ。
円環少女で徹底してロリヒロインばかりを書いてきた筆者がallo,toi,toiを書くというメタ的な興味深さもありこの作品がイチバン印象に残った。監獄というマッチョな理屈に支えられる暴力の世界に突然やさしさを持ち込めばそりゃそうなるだろ、という、後味の悪さも凄い。
Hollow Vision の煙草をスイッチに動く霧状端末、というアイディアがすげーカッコいい。ラストシーンの無常観たるや。BEATLESSも読まねば、と思った次第。
父たちの時間もまた、ラストシーンが寂しい。何年か前から流行っている感のある、人間というシステム・脳というモジュール、という考えで作られた物語はどれも得も言われぬ物悲しさがある気がする。話は暴走ナノマシンvs科学者という構図にも関わらずその内容は、生物的に考えた場合の『父性』が人類の制御を離れて自己進化を遂げたナノマシンを通して語られるという奇妙な短編。人間が感情を持ちながら生物である以上システマティックに理解できてしまい、感情があるからこそそれがナノマシン越しに見えた時に渦巻く感情はなんとも。