2017年12月24日日曜日

漫画感想 城平京・片瀬茶柴 虚構推理7巻

虚構推理ノベライズの最新刊、七巻を読んだので感想を。
原作を消化してまさかその先が描かれるとは、とファンとして嬉しい悲鳴の七巻です。
ノベライズ版、といいつつ6巻で原作小説である「虚構推理 鋼人七瀬」は終了。原作ファンが待ち望んでいた続編のスタートです。
本編は新作短編が3つ。ファウスト掲載の小説を基にしています。
今回も最高に面白かった。
相変わらず琴子が可愛い。九郎に一途でコロコロと表情が変わる姿、どこかズレたセリフ、知恵の神としての姿、どれも魅力的に描かれています。原作小説以上に表情や演出が見事で魅力たっぷり。
九郎は九郎で、相変わらず冷たい。冷たい中で琴子の知恵の神として仕事を心配する一面が覗くところもいいですね。
短編はどれも虚構推理らしさ、城平京らしさが濃くて良かった。
「恋愛×伝奇×ミステリ」の看板にたがわぬ、可笑しくてどこか底知れない、笑えるのに不意にぞくりとする短編でした。

以下、ネタバレ全開ですので、未読の方はご注意を。

・第14話「よく行く店」
九郎は大学近くの行きつけの喫茶店に琴子を連れていき・・・
という日常回。
つき合って間もないのに枯れている九郎を秘宝館に連れていこうとする琴子がおかしい。
前の彼女を平然と連れてくることに嫉妬する琴子が可愛い。九郎が平然とアイアンクローかましたり元カノと来た行きつけの店に来たりするのは、紗季からすれば九郎が心を許している証なのだろうけど。
九郎の「岩永の結論は信用できる」というのは虚構推理という作品の特殊さを表していますね。推理で手繰り寄せる真実ではなく、虚構をねじ伏せる結論を選ぶという作品の凄さ、みたいな。

・第15話「ヌシの大蛇は聞いていた」
ある沼のヌシである大蛇に呼び出された琴子。大蛇は沼に死体を遺棄した殺人犯が残した言葉が気にかかり、その真相の解明を琴子に依頼した・・・
というミステリ回。まさに虚構を推理する回でした。
生贄を捧げられた過去もあり、水神として崇められた大蛇との交渉に向かう琴子を、豚汁を食べるからという理由で断る九郎が笑える。彼氏の家用に気合を入れてワンピースを着れば登山着に変えられ、夕飯を理由に断りながらしっかり弁当を持たせる九郎の保護者感が楽しい。かまって欲しい琴子と冷静に塩対応で返す九郎の漫才は全編通して面白かった。
沼に殺した男を捨てた犯人の呟きに合理的な結論を導く、という虚構推理は相変わらず見事。残忍で悲しい最後の結論は、しかし虚構であり、その恐ろしさや切なさすら、人の生き死にに物語を求める人間の傲慢さというか。
「説明は合理的だが犯人が合理的に動くとは限らない」というのはパズル系の推理小説への疑問でもありますね、ずいぶん昔の議論なきもしますが。
最後にえらく冷たい対応をしていた九郎の真意が見えて、二人がすれ違って見えるもののお互いを思いあう様がわかります。
神と不死者という似た者同士でありながら、互いへの思いやりが行違う二人の物語の結末がどうなるのか、次の長編が楽しみ。

・第16話「うなぎ屋の幸運日」
うなぎ屋で食事をする十条寺と梶尾。二人は深窓の令嬢然としていながら一人でうなぎ屋に来店した少女について疑問を抱き、推理を始める。謎の少女への疑問は、半年前に梶尾の妻が殺された事件へと飛躍し・・・
浮世離れした琴子の存在感に惑わされて二人の男がかかわった事件について推理が進む、というわけのわからない感じが凄くイイ。
男は本当に妻を殺したのか? という謎と何故今更になって男は罪を告白したのか、という謎が明かされる、虚構の推理と人間の真実の二重底はぞっとします。
更にその先にある、人間の底意地悪さと、それに対抗するための知恵の神の残酷さ。琴子の使命の強さを見せつけた後のオチの酷さも、城平京らしくていい。
あまりに自然と泊まりに来る彼女と買い物する二人の姿もほほえましくて良かった。

さて、今回は短編で、次は長編とのこと。
楽しみにしています。
以上

2017年12月10日日曜日

漫画感想 内藤泰弘 血界戦線 Back 2 Back 4巻 V・次元血統

血界戦線最新刊4巻を読んだので感想を。
3巻では新たなヴィラン・キュリアスが登場となりましたが、今回も引き続きこれからが楽しみになる新キャラが登場したりと、いつも通り大満足の一作。
アニメも快調、ノベライズも良作と血界戦線は常に最高ですね。

以下、ネタバレ込で各話感想を。


『Angry Young Merman』
快楽と引き換えに使用した人間が一定確率で発火するドラッグ「アグニの角質」の調査に乗り出したザップとツェッド(+2)。
ツェッドはその調査中、ドラッグの取引が行われるクラブで顔見知りの中年男性と出会う。彼は大崩落時に肉体の一部がクラゲに似た何かに置き換わる感染症に罹患していて・・・
ツェッド主役回。
怒らないやつとは付き合いづらい、というザップの持論はまあまあわかる。ザップは極端だけど。そして人間でもなければ異界の存在でもないというツェッドの孤独は、これまでも描かれてきた通り。それでも師に突きつけられた選択で外の世界で生きることを選らんだ彼に訪れた幸いもまた、これまで描かれてきた通り。
だからこそ、ヘルサレムズロットですら偏見や差別を捨てる事の出来ない人間や異界の存在の中でも、孤独がわかった上で手を伸ばせるというのが彼のいいところ。
底抜けに自己に忠実な兄弟子と、自分の罪を背に勇気を見せるレオの中にいることがどれだけ幸せかわかる一作でした。
善意だけでは救えない相手も、孤独を知るツェッドなら手を伸ばせるというのがとてもいい。
「そんな言葉を受け入れるのは 息が出来なくなるのと同じ事だ」というセリフは最高

『ザップ・レンフロ 因果応報中』
バナルカデス呪術族のトレイシー、まさかの再登場。
バナルカデス呪術地雷によって身動きを封じられたザップの下に、ヘルサレムズロット中のザップへ恨みを持つ者が殺到する。
ザップのクズっぷりとハチャメチャな強さ、欲望に忠実でありながら軟派ではない妙なカッコよさ、なんやかんやで仲間に愛されているところと、ザップの魅力たっぷりなギャグ回。
秘密結社ライブラの構成員でありながらあの人数が殺しに来るって普段なにやってんのやら。
クラウスさんが思わず泣いてしまうほどのザップの悪行が気になるところ。トレイシーへの男前な口説き文句とそこまでして生き延びてのオチの酷さもいい感じ。

『V・次元血統』
3巻でキュリアスに殺された次元怪盗・ヴェネーノ。彼の殺害現場からある物が失われていた。次元怪盗の愛刀『無銘』。超常存在がひしめくHLにおいてさえ「切れぬものなし」と言われた名刀が姿を消し、さらに現場から回収されたヴェネーノの遺体も周囲の空間を飲み込んで消えてしまう。一方そのころ、ヴェネーノの遺産を狙う者たちが彼の娘と会計士の命を狙い動き出した・・・
3巻でライブラとロウ警部補を相手に盗みをはたし、新たな超常存在キュリオスに殺されたヴェネーノのその後を描く一作。
これが最高! 血界戦線の世界がギュッと凝縮されたようなお話。
謎の凄腕異能者がバンバン出てくるこの作品でまさかヴェネーノがそんなスゴイ存在だったとは。彼らの血統もまた超常存在に『眼』を奪われた人間だったとは。
次元を斬る刀とある一族の間にかわされた契約。
ヴェネーノは娘のためにHLのあらゆる秘宝を盗み出し、血統を次元刀との契約から救い出そうとしていたんですね。
そしてそれは叶わず、娘に受け継がれた、と。3巻もそうでしたが次元刀斬法がカッコよすぎる。
しぶい怪盗紳士が消えて美少女剣士になるのはやや残念ですが、これから彼女の物語も楽しみ。
キュリアスにヴェネーノの娘、と新たな強者が揃い始めたHL。どうなっていくんでしょうね。

続きも楽しみにしています。
以上。

2017年11月30日木曜日

漫画感想 恋は雨上がりのように 9巻

恋は雨上がりのように、最新刊9巻を読んだので感想を。
アニメ化に続いて実写映画化と来て、絶好調の本作。原作も着実に物語が進んでいます。
表紙がいつのながら美しい。

想いを店長に伝え、はるかとのギクシャクした関係が改善したあきらでしたが、まだ陸上に戻ることは出来ず。この葛藤はまだ続きそう。
一途な倉田ちゃんが可愛いですね。届かない「走れ!」は、似たシチュエーションが繰り返される中での読者の想いでもある。
はるかの「好きだけじゃだめなの?」は彼女だからこそ言える台詞。心底走るのが好きなはるかがやたら可愛い小旅行編でした。
好きだからこそ懸命になり過ぎて挫折し、一度倒れたら中々立ち上がれない。そんなあきらの姿は、ある意味これがスポーツ漫画だったらライバルと親友と恋の相手とでトラウマがあっという間に消えるんでしょうが、恋も走りもなかなか前へ進まなくてもどかしい。

前巻でまさかの失恋を迎えたユイは、夢と向き合って前へ進みました。髪を切るのは、ベタだけど、この漫画の丁寧な演出だとやはりぐっと胸を打つ。

あきらとの関係から店長もまた小説に打ち込みはじめ、一方で旧友のちひろの前には別のあきらが。夢と美しさの話は、平凡な少女たちと違い天才の世界が短い中で見えてきてとてもいい。

ラストはあきらが店長の下へ向かい終わりましたが、どうなることやら。
そして少しずつ背景が見え始めた加瀬がどうこれから絡んでくるのか、楽しみです。

以上

2017年11月12日日曜日

ラノベ感想 時雨沢恵一 キノの旅 XXI巻

キノの旅の最新刊21巻を読んだので感想を。
まさかの再アニメ化で当時アニメを観ていて、そして最近「昔好きだったラノベ」みたいに毎年新刊が出ているキノの旅が語られるのを歯がゆく思っていた自分としては嬉しい限り。

で、新刊の感想は以下の通り。ネタバレ全開なのでご注意を。

2017年11月3日金曜日

ラノベ感想 丸戸史明 冴えない彼女の育てかた13巻(最終巻)

冴えない彼女の育てかたの最終巻を読んだので感想を。

いよいよシリーズも最終巻。
ゲーム制作にささげられた青春も、恋も、才能を燃やし尽くす天才たちの物語もこれにて完結でした。
恋物語的には前巻、Girls Side3巻でほとんど終わっていて、最終巻はある種のエピローグ的な感じ。
加藤への告白とその返事が、これまで積み上げたシリーズ全部を凝縮した甘さで、もうニヤニヤするしかない。作中作成するゲームの感想で語られる「メインヒロインは可愛かった。あんなに甘いシーンは書けない」と天才ゲーム作家に語られるような、甘さ凝縮の名シーンでした。
そして敗れたヒロインたちの姿もまた、可愛いやら切ないやらカッコいいやら。
恋に決着をつけ、過去を清算して、そして未来を向いて歩き出すヒロインたちの姿はもうほんと、ゲーム化して別ルートを用意して欲しいくらい。
GS3巻を読んだときは、このヒロインたちの激情を知らずに主人公が生きて行っていいのか、とか思いましたが全く見当違いで野暮でしたね。
作成したゲームが賛否両論だったり、倫也を認める人たちが作家性やその才能ではなくある種の根性や性質、人脈や努力を認めてくれるあたりも良かったかな。
最後の加藤とのやりとりはクスリと笑いながらも、エロゲー出身の作者らしいラストシーンで楽しかった。
丸戸作品らしい激情はガールズサイドで終わっていて、ある種すでについている決着を主人公が引き取るような最終巻でしたが、非常に楽しめました。
ゲームも引き続き作って欲しいけれど、当時のシナリオライターってもうほとんどアニメの企画とか脚本とかそっちいっちゃってるからなぁ。縮小する業界が切なく見えるのは、読者の私の年齢ですかね。
このシリーズはこれでおしまいですが、丸戸先生には引き続きラノベも書き続けて欲しいところです。
新シリーズも是非、楽しみにしています。
以上

ラノベ感想 林トモアキ ヒマワリ:unUtopial World5

林トモアキ先生の新作、ヒマワリ:unUtopial World5を読んだので感想を。

まさかのオーディオドラマ化。お・り・が・み以来ですから何年振りだろう。アニメ化でもしないかしら、と思いつつ、けっこいい出来で良かった。声優から入った人も是非、シリーズに手を出して欲しい所。ヒマワリは販促に力が入っていて、ファンとしては嬉しい所。

遂に開催された第二回聖魔杯本戦、破滅の未来を変えるために現代に降り立ったヒマワリとミサキの二人の前に、初代聖魔王名護屋河鈴蘭率いる魔殺商会が立ちふさがる。そしてヒマワリとミサキを狙うゼネフもまた暗躍を始めて・・・というシリーズ五巻。
戦闘城塞マスラヲに続く聖魔杯ということで、雰囲気は少しマスラヲ寄り。というよりヒデオと鈴蘭がメインを張ればそうなるのも必定なのかな。
今回も面白かった。以下、ネタバレ

2017年10月4日水曜日

秋田禎信 内藤泰弘 『 血界戦線 グッド・アズ・グッド・マン 』

秋田禎信による血界戦線のノベライズ第二弾、グッド・アズ・グッド・マンを読んだので感想を。
第一弾である前作『オンリー・ア・ペイパームーン』の感想はこちらへ

今作も最高でした。秋田禎信ファンも血界戦線ファンも、満足できるのではないでしょうか。
YMOのアルバム「増殖」を完コピした表紙絵がすごく血界戦線らしい。
今回は秋田禎信流ナンセンスが前回より多めで、前回のような感動路線もなく、戦闘描写は控えめで、ややマニアックな印象。
しかし秋田禎信が描く堕落王フェムトの姿と、本編では語られない堕落王にたいするレオの考えは中々興味深い。
血界戦線ファンなら間違いなくおススメです。

以下、発売日に感想を上げますが、ネタバレ全開なのでご注意を

2017年9月5日火曜日

漫画感想 内藤泰弘 血界戦線 Back 2 Back 3巻 深夜大戦 Dead of night warfare

血界戦線の最新3巻を読んだので感想を。
10月からアニメの2期が始まる血界戦線の最新刊。
今回はいつもの短編連作ではなく、一連の長編でした。アメコミ的な空気を持つ本作に、ついにヴィランが登場します。
今回も傑作だった! 
内藤泰弘先生が描くヴィランが良くないわけがなく、ひたすらカッコイイ一冊。
以下、あらすじ&ネタバレ感想。



アメリカが収容していた世界崩壊幇助器具・終天圧縮時計が受肉して脱獄。
一方同じころ、ダニエル・ロウ警部補は世界崩壊幇助器具・ナクトヴァの微笑みをHLの外へ移送しようとしていたが、それをライブラも察知して護衛に加わる。
しかしナクトヴァの微笑みを狙い、次元怪盗ヴェネーノが動き出し、さらに受肉した終天圧縮時計もまたHLを目指していた。
なにもかもカッコいい一冊。
神性存在が一万年後の人類へと残した世界を滅ぼすアイテム「世界崩壊幇助器具」を巡る戦い。まずそのワードセンスが相変わらずいいですね。
そして再度登場の次元怪盗ヴェネーノがまさかの退場。ひたすらカッコいいスタイリッシュバトルが素敵で、退場が惜しいキャラでした。
なにより今回は、ついに現れたヴィラン、受肉した終天圧縮時計・キュリアス。合衆国の暴力に屈した過去を持ち、暴力で負けぬと語る男。
こいつがまあカッコいい。ちょっと間抜けだったり人間臭いところが、まさにヴィラン。
時間の加速と時計の歯車を武器にするデザインがカッコいい。
現状まだ神性存在と戦えるほどではないのかな? と思いつつ、自らの命も勘定に入れて世界を守らんとするクラウスに敬意を表するあたり、信念あるヴィランでいい。
さらにキュリアスに興味を持った堕落王が相変わらずの別次元。久しぶりに狂気なところを見せてくれました。
時間を操作する相手に高速自動再生の化物をぶつけるあたり、本当に別格。
最後は永遠の虚に落とされましたが、時間を自在にする彼のこと、必ず復活して大暴れしてくれるでしょう。楽しみ。というか虚の先には未だにHLに姿を現さない超常存在がうろうろしていたはずで、パワーアップフラグでもあるのかな。
今回もヘルサレムズロットのカッコいいワードが連発。
HLから外の世界への魔導の持ち出しを監視する「二重関門」とか次元刀斬法とか、クトゥルフっぽいナクトヴァの微笑みとか、歯車の影で構築されたキュリアスとか、とにかくひたすらかっこよかった。
亀の騎士みたいな感動系もいいんだけど、やっぱり内藤先生はこういうボンクラ魂直撃の奴が最高。
次が楽しみな一冊でした。

さらに傑作だった秋田禎信先生によるノベライズ第二弾が10月に発売決定という嬉しいお知らせも。
アニメ2期も楽しみ。
楽しみが多くていいことだ。
以上。
傑作ノベライズ。レオがザップのカッコよさを語る一冊。

2017年8月27日日曜日

観劇感想 Mrs.fictions 『 15 Minutes Made Aniversary 』

吉祥寺シアターでMrs.fictionsの企画、15 minutes made anniversary を観て来たので感想を。
この企画、見るのは4回目なのだけど、一番良かった。
いつもと違う会場で豪華なメンツで、と当然と言えば当然なのだけど、アニバーサリーに相応しい楽しい公演でした。
ひたすら客席も盛り上がり、多幸感あふれるイベント。叶うならDVDにでも焼いていつも見ていたい公演。
以下、各団体の感想を、出演順で。
① 柿喰う客 / フランダースの負け犬
さほど熱心な演劇ファンでもない自分でも名を知っている有名劇団。
みんな大好きなドイツWW1もの。ちょっと話の展開がベタすぎて、ガンガン脚本を叫ぶタイプの演劇が持つ観客に強制する熱量を受け止めきれなかった。青春譚とパンフにはあるが、二人の友情が生まれ関係が変わるところがわからない。しかしフランダースの犬をモチーフにするアイデアは良かった。不満点は、長編を短くして消えた部分なのだろう。
そして演出の人が文豪ストレイドッグスの舞台版をやるそう。漫画アニメの舞台化って、演出が小劇場界隈の名演出家が多いイメージ、シャトナーさんとか。若い演劇になじみのない人にもいい芝居が届くのは素晴らしいことだ。

②吉祥寺シアター演劇部 / ハルマチスミレ
劇団ではなく、役者志望の高校生を集めて吉祥寺シアターが行うワークショップの生徒さん。リアル高校生が小劇場トッププロたちの中に飛び込むリアル青春を、青春物語を通して観客が観るという、役者にも観客にも貴重な経験。
THE青春! といった感じ。群像劇だが、メインになるヒロインの定時制の子が妙にこなれた芝居。安定して見れたが、全体からするとその方向じゃない方が好みかな。相手役の高校生の、プロとは違う絞り出すような大きな声が、若さと演技が混ざり合ってとてもよかった。
立ち位置や芝居の仕方など、演出側(=大人)のかける負荷は高かっただろうけれど、それを受け止めて懸命に動く姿は、学生ではなく一人の役者として素晴らしいことだと思う。
演出では、生演奏の音楽と、光のラインの使い方が美しい。

③梅棒 / BBW
大きな会場でやったり有名作品に振り付けを提供するダンスチーム。
ダンスは正直、全く触れてこなかった文化なので不安だったが、非常に楽しかった。
前半戦のトリにふさわしい、ひたすら楽しい15分。
太った女の子が謎の応援団に背中を押されて、色々やって告白を決意するけど挫けて、やっぱり諦めずアタックして結ばれる、という簡単なシナリオを、JPOPとダンスで表現。
キレッキレのダンスはダイナミックで、近くで見るとそれだけで楽しい。
ストーリーも90年代POPとダイエットネタがベッタベタの笑いなんだけどイヤミじゃない。
最後はハッピーエンドにパイ投げまであって、手拍子に客いじりと、演劇公演ではなかなか出会えない観客の沸き立つ空気感が楽しかった。

④演劇集団キャラメルボックス / ラスト・フィフティーン・ミニッツ
言わずと知れた創設30を越える名門がまさかの参戦。しかも作・演成井豊の新作書下ろし。これぞアニバーサリーといったところ。
内容は当然、文句なしの傑作。役者の動きや声、芝居の仕方も、メソッドを持っているところだからか他とは違う空気を持っていた。デカい会場の劇団もいいよねと再確認。
旅行先で娘にビデオレターを送ろうとする夫婦だが実は二人の乗る宇宙船はいままさに爆発沈没しようとしていて・・・という物語。
綺麗な物語だった。
乗船した宇宙船が沈もうとする中で、娘への映像を残す二人が、喧嘩をしながら自分たちの出会いを思い出して、娘のために遺したい言葉を考える姿が美しい。
登場シーンで顔についたパスタソースがラストそう繋がるかと、さすが。
二人の出会いと、子供の名前を決める過去を思い出して、そして爆発の中で愛を確認する二人の美しさ!
芝居の上手さも相まって、一番泣けたかもしれない。

⑤劇団「地蔵中毒」 / 想いをひとつに
一番の問題劇団。前評判から観客も他劇団も衝撃を受けていた作品。
80名団体割引とか、めちゃくちゃやるところなのは知っていましたが、ホントに滅茶苦茶な劇だった。ナンセンスコメディに分類されるんだろうけど、作中のボケは、観客が引こうが受けようが関係ないような姿。
本当に何もかも意味のない物語で、ストーリーもない。観客には何も残らないのだけど、笑いとざわめきが確かに劇場には残っていて、涙を流して笑った。
演劇的に考えると、笑いがガンガン起こる中で「膣にトキ」で引かせて、そのワードを頭に残す演出? とも考えたけど、関係なかろう。
ただただ淡々にやられる下ネタで戸惑う客席って面白いなぁ。
タイトル回収の凄まじい雑さ、ラストのキジのがっかり感。何もかも滅茶苦茶。
この公演で一番記憶に残ったかもしれない。
24時間テレビが思いを一つにして愛で地球を救おうとしている最中、吉祥寺で思いを一つにして原宿を灰と化している。この現状がナンセンスで面白い。

⑥Mrs.fictions / 私があなたを好きなのは、生きてることが理由じゃないし
ご存知主催。アニバーサリーの大トリ。
素晴らしかった!
自殺する文学少年の幽霊が、自分の部屋にいる両親と恋人が過ごす日々を、ただ見つめるだけのお話。
「君に送る。君を忘れていく私に送る」というあらすじの通りの物語。
メタ的に客席に話しかけ、時間を自由に進める青年(岡野康弘)が、何年たっても死んだ自分の部屋に居続ける恋人へ投げかける視線が切ない。
タイトルの通り、恋人は死んでも青年を思い続けていて、生前の姿を想像して語りかければ想いは消えないと告げる。この事実を告げるシーンが、物憂げな恋人が歌う鼻歌が徹子の部屋になって物まねが始まる演出で、これが笑えて泣ける。
メタ的なギャグとシチュエーションが、最後の青年の独白「本当は死んだあとのことなんてわからなくて、これは、もし向こうの世界があれば元気でやっていて欲しいっていう、こっちからのメッセージのつもりの物語なんだけど。メタ発言」というセリフによって、メタな状況が全て繋がって良い。

以上、どれも素晴らしかった。
来年のMrs.fictionsは再演+新作長編公演ということで、楽しみに来年を生きる気力がわくというもの。
楽しみにしています。

2017年8月18日金曜日

漫画感想 野田サトル ゴールデンカムイ 11巻

ゴールデンカムイ最新刊11巻を読んだので感想を。
アニメ化も決定したゴールデンカムイ。アニメ化や人気上昇も気にせず、どれだけスゴイ変態を出すのかギリギリを競うようなノリは変わらず。今回もとても良かった。
今回はネットでも一時話題になった、辺見に続く新たな変態、変態けものフレンズこと姉畑支遁が登場します。
今回の見どころは、変態けものフレンズと、明かされる尾形の過去。
この異常な囚人とシリアスな尾形の闇を両立させて一つの単行本に載せるところがこの漫画の魅力。まだまだ面白くなりそうですね。
以下、長い感想。ネタバレ多し。

2017年8月11日金曜日

漫画感想 九井諒子 『ダンジョン飯 5巻』

ダンジョン飯の最新5巻を読んだので感想を。
ドラゴンを倒してファリンを生き返らせたライオス一行。地上へ帰ろうとする5人の前に、謎の魔術師が現れて・・・という最新刊。
面白かった。
謎の魔術師にファリンを連れ去られ、いったん帰還する決意を固める一行が色々な決意を選択し始めます。これまでライオスになかば強引に連れられてきた感のある一行が、旅の区切りで色々と変わる様は、ここまで読んできた蓄積から来るものがありました。チルチャックの仲間への決意や、マルシルの強くなろうとする決意など、どれも良かった。
その中で相変わらず食を第一に考えるセンシは癒しですね。
コカトリスに噛まれて石化したマルシルを使って漬物を作る非道っぷりは、この巻で随一の大ボケ。ツッコミポーズで石化したり、ヒロインから外れていくマルシルの顔芸がどんどん酷くなっていって笑えます。
練りこまれたダンジョンや魔法の設定が、設定好きとしては楽しい。
石焼親子風あんかけがスゲー美味そうだった。

一方、ライオス組とは別のチームの行動も現れて、これまでのモンスター料理コメディから、だんだんとダンジョンの謎やそこに関わる人間のドラマへと物語がシフトし始めました。
まだシフトし始めたばかりで、このシフトが面白い方へ転がるかどうかは次の巻あたりからわかるんじゃないかな。

新たに物語を動かすカブルー。パーティが水ステージで全滅するくらい弱いけど、全員がカブルーに妄信的で危うい。カブルーは爽やか冒険者、といった感じでしたが、この巻でついに黒い本性がチラリ。
割とベタな独善野郎でしたね。ダンジョンと言う歴史を動かす大きな物語的「状況」と自己の正義への妄執を重ねてこじらせているタイプ。自分のルールを世界のルールだと決めつける独善に気づかず、ライナス兄妹のような損得が独特なタイプを信じられず、理解しようという考えを持てない独善ゆえに否定せざるを得ない、ベタな悪役でした。
さらに1巻でパーティを抜けた未登場キャラ最後の一人、シュローも登場。なにやらファリンと何かあった様子。
東方人と呼ばれる異国の種族みたいですが、ファンタジーモノの王道・東洋の神秘的デザインが凄く素敵。ちょっとちぐはぐな感じが、ライオス一行のTHEファンタジーな世界観に対する異国感を出していてカッコいいデザイン。シュローとお供の女性、というパーティ編成も、ファリンの事を考えると意味ありげ。

本作で、この手の人間ドラマをやったせいで凡庸な物語になってしまったら嫌だなぁ。
たとえ怪物蠢く不思議なダンジョンでも、冒険するなら食わないといけないし、食うなら人間当然旨いもの喰いたいよね、という昨今流行りの飯漫画とは一線を画す白眉の出来の本作。ベタな自己正義妄信キャラや女への執着に精神を壊すキャラといった、割合この手の話にありがちな流れが現れはじめ、そっちに行ってほしくないな、という物語の方向性が生まれそうでやや不安。
しかしそこはダンジョン飯。流行りの飯漫画+ファンタジーという流行追いかけ系でありながら、真面目に料理+練りこんだモンスター設定+レトロだけど誠実に描かれるファンタジー世界、とうまく混ぜ合わせる腕前であることはここまでよくわかっているわけで、まあ杞憂でしょう。

ここからどう物語が転がるのか、楽しみにしています。
以上。

漫画感想 水薙竜 『ウィッチクラフトワークス 11巻』

ウィッチクラフトワークスの最新11巻を読んだので感想を。
面白かった。
多華宮君と火々里さんの過去を探す記憶の旅のラスト。
火々里さんが幽閉されていた理由、多華宮君とエヴァーミリオンの関係、火々里さんの傷の理由、多華宮君と火々里さんの出会い、と長く隠されてきた色々な過去が明らかになる巻でした。
実の母親に幽閉された火々里さんにとって多華宮君がどれだけの救いとなったのか考えると、いまのベッタリな感じも理解できようものです。
火々里さんを外へ連れ出して世界を魅せる多華宮君が最高にカッコいい。
徐々に進んでいく二人の距離が、今回ぐっと縮まって、この距離感の描写が良かった。多華宮君が強い火々里さんを考えるための思い出が、ウィークエンドとの激闘ではなくてデートの一幕だった辺り素敵です。
ギャグも相変わらずで、前回から続く霞ちゃんの暴走するブラコンとそれを常に上回る火々里さんの狂気的な独占欲が面白い。あとりもいいキャラ。
独特の世界観もいつも通り良い。常に無敵のかざね、街に馴染む塔の魔女、ついに現れた物語の元凶・火陽、多華宮君に従属させられるエヴァーミリオン。
街に現れた工房の魔女の査察官、動き出すメドゥーサと火陽、襲撃された火々里家、変わっていく二人の関係。と、物語が動き出してきました。
次も楽しみにしています。
以上。

2017年8月8日火曜日

漫画感想 恋は雨上がりのように 8巻

「恋は雨上がりのように」の最新8巻を読んだので感想を。
ノイタミナでいよいよアニメ化決定の本作、本編はいよいよ年末です。
あきらから伝えられた思いに戸惑い、どう答えればいいか悩む店長の葛藤が続きますが、今回はなんといってもユイの物語でした。
感情を伝えて待つだけのあきらと、若い恋心に戸惑う店長と対照的に真っすぐ恋をつっぱしるユイが可愛かった。
告白を決意してからはイラストがえらく少女漫画チックで可愛らしい。勝負髪型も初々しくて良かった。
「魔法よ どうか とけないで」はこの巻で屈指の名シーン。
吉澤との恋の結末が、まさかのカバー下でばらされているので、本編を読む前にカバーをめくらないように注意。これはちょっと酷い仕様。あとがき漫画にして欲しいよね。

PCの容量に例えて新しい物を受け入れられないと語る店長につめよる所と、気持ちに戸惑う店長が無視し続けた結果むくれるあきらがやたら可愛かった。

はるかとあきらの陸上部つながりも一歩前進。店長の息子に走りを教えることに抵抗がなかったり、陸上部の見学まで足を向けたり、店長との関係で徐々に陸上に対して素直な気持ちが出始めているところも楽しみ。

九条や元妻と店長との会話や空気感が、なんとも言えない年齢感を作っていてイイですね。

アニメ化とともに起承転結で転か結に向かいそうな本作、続きも楽しみにしています。

2017年7月12日水曜日

ラノベ感想 上遠野浩平 ブギーポップ・ダウトフル 不可抗力のラビットラン

上遠野浩平先生のブギーポップシリーズ最新作、ブギーポップ・ダウトフル 不可抗力のラビットランを読んだので感想を。
ブギーポップ本編も20作品目ということですが、内容はいつものブギーポップといったところ。
“炎の魔女”霧間凪を取り巻く重要人物、凪のサポートを務める羽原健太郎と“レイン・オン・フライデイ”にして<傷物の赤>九連内朱巳が対峙する、ある種で初期のブギーポップ感のあるストーリー。
能力者同士のバトルも控えめ、MPLSは魔女戦争のようなトンデモでもないいつもの感じと、やや物足りなかった。特に正義の味方の傍にいながら、自身の正義に懐疑的であり、しかし心のどこかで憧れは抱いているという、実に上遠野浩平感のある羽原が掘り下げられないあたり、スッキリしない。
物語的にはレインが主役といった感じで、統和機構で出世しすぎて立場が変わってきた彼女が世界との関係を考え直すきっかけのようなお話でした。
ハートレスレッドでも思ったけれど、やっぱりレインは萌えキャラだな、といったところ。地位を利用してかつての自分と似たような境遇の子供を探して保護して、彼らの成長を見て涙ぐむ、といった一面を見せてくれます。
しかしそれが想定を越えて上手く行き過ぎてしまう辺りが、レインの優秀さというか、運命に気に入られすぎている不幸なところというか。

世界の敵が明確に存在しないのも、今回のカタルシスに欠けるところ。霧間凪と同じ【死神に見捨てられた】存在が、ちょっと観念的すぎたのかもしれない。

しかし、レインを前にブギーポップが示した【世界にはどうしようもないことがあって、皆それに対してこういう姿勢をとっているけどそれではダメで、それを自覚できた奴が変わっていく】という、上遠野浩平流の世界との向き合い方みたいなものは相変わらず面白くて好きな感じ。

あとがきはいつもの感じながら、何故自分が小説を書くのか、といったかなり重要なことがやはり明確な言葉にはせずに書かれていて、それを読んでやっとこの巻で何が言いたかったのか分かったような気がしました。気だけですが。

更に複雑な立場になることが示唆され、ブギーポップとの邂逅も果たしたレイン・オン・フライデイが今後どうなるのか、魔女戦争を終わり、ブギーポップシリーズはどこに向かうのか、楽しみにしています。
そして来年はブギーポップ20周年ということで、何かあるといいんだけど。

2017年7月7日金曜日

読書感想 上遠野浩平 製造人間は頭が固い

上遠野浩平の最新作、『製造人間は頭が固い』を読んだので感想を。
SFマガジン連載の一連の作品に書下ろし『奇蹟人間は気が滅入る』を収録した一冊。

SFマガジン連載だとか、初のハヤカワ文庫JAからの発刊だとか、そんなことは一切関係なく、いつも通りの上遠野浩平サーガのストーリーでした。
それどころか、ブギーポップよりも過去の統和機構を扱った作品ということで、かなりマニアックな一冊になっている気が。

合成人間を作る力を持った“製造人間”ウトセラ・ムビョウの物語。
特殊すぎる力を持つがゆえに、その力を使うためのルールを持つウトセラ。彼が一人の赤子の命を救ったところから始まる物語。
面白かった。
ウトセラはいかにも上遠野浩平といった感じのキャラクターでした。
いままで謎に包まれていた合成人間の真実にも触れていました。その製造方法が外部に漏れていた理由も。

2017年6月23日金曜日

漫画感想 城平京 / 水野英多 天賀井さんは案外ふつう 4巻(最終巻)

天賀井さんは案外ふつう、最終巻を読んだので感想を。
面白かった。
なんともゆったり進みながら、最後はキチンと大団円。
どこか不思議な能力や人間性を持ちながら、それでもどこか実在感を持ちながら、ポジティブに前へ進む日々の描写は、なんともほんわか暖かい。
これこそ本当の日常系、と言ったところ。
3巻と本巻のあとがきを読むに、城平京先生としては不本意な流れが多かったようですが、「案外ふつう」というタイトルの着地点はステキでした。
真木と西陣先生の先生のラストは、虚構推理で紗季と九朗の別れと重なってしみじみ。
真木の両親が語る「なぜ物語が必要なのか」という話は、それだけで一つの物語になりそうないいお話でした。
水野英多先生の作画も安定して、萌えやデフォルメ、ささいな表情や、コマ割り演出など、かなりクオリティが高く、一見地味な本作を彩っていました。
スパイラルのコンビで織りなす物語としては少し地味で、売れれば無限に続ける漫画の世界で初めから短くまとめる前提のストーリーメイクはスッキリしていて感じはイイがやはりちょっと物足りない。
それでも、日常という世界を切り取って描くならこんな感じが案外いいのかもな、と思わせてくれる、しっとりといい作品でした。
またこのコンビで新しい作品が生まれることを祈って。
以上。

2017年6月22日木曜日

漫画感想 久米田康治 かくしごと 4巻


かくしごと、最新4巻を読みましたので感想を。
今回は、姫ちゃんにねだられて犬を飼い始める話が軸。
犬を飼うと決めてからの大人の浮かれっぷりと、姫ちゃんの犬を飼うための準備が可愛かった。

カラーページの未来編では、話が動き出そうとしているようす。先生や姫ちゃんのクラスメートなども現れて、果たしてこの物語に何があったのか。
アシスタントの彼が、漫画家ではなく実家の本屋を継いでいるあたりがなんだかリアルでしたね。
紙ブログは漫画家の老いの話や、アシスタントに来てくれない話が興味深かった。
特徴的なイラストと、家族モノ漫画らしい穏やかな空気、そして丁寧に調整された漫画家ネタ、カラーページの謎など、一冊の中にいろいろな楽しさがつまっていて、相変わらず素敵でした。
毎回、青を基調とした表紙が美麗でいいですね。
続きも楽しみにしております。
以上。

漫画感想 城平京 / 片瀬茶柴 虚構推理 6

虚構推理の漫画版、最新6巻を読んだので感想を。
原作小説、虚構推理-鋼人七瀬-のラストまでを描いています。
素晴らしかった。
この作品、理屈や説明が多い原作小説を上手く漫画化していて本当に読んでいてストレスが少ないですね。
流石に原作の最後にあたる、怪異の虚構を嘘を積み重ねて崩すシーンはセリフの嵐でしたが、随所で漫画ならではのステキな絵が挟まれてスムーズに読めました。
くだんを食った六花と九朗が互いを倒すために死に続ける様なんかは、漫画なればこそ狂気が増します。虚構の真相を突きつける推理のラストなんかも、漫画という情報量をコマ割りで調整する媒体だからこその演出が効いていてイイ感じ。
紗季や琴子のコミカルなやりとりも、イラストの変化で魅せてくれます。

なにより素晴らしかったのはエピローグにあたる部分。
紗季と九朗の別れ、そして九朗と琴子の愛情、このあたりの作画の構造なんかがかなりい素晴らしかった。細かい表情と、絵柄の使い分けが素敵。
コミカライズがかなりいい結果になったのは、作画の片瀬先生の城平作品への高い理解と、なによりこのキャラデザの良さだと思いました。

なにより嬉しいのは、これで完結ではないところ。
城平作品で小説の続きが出るのって、スパイラルの小日向くるみ以来? 本格ミステリ大賞をとったあと、講談社のサイトで冗談みたいな続編タイトルの話はしていましたが。ギロチン三四郎とか魔人ピノキオとか、本当に書いてくれたら読みたいけれど。
原作自体も伏線を張りつつ、六花の目的などは謎に包まれていましたが、それが漫画でついに明らかになります。
生まれながらの怪物、人間であったころから怪物を心に住まわせていた六花。そしてそれを止めるために生きる九朗。秩序の守護者である琴子。
城平作品に頻出する生まれながらの天才、才を持ちすぎたものの狂気や孤独、そしてその中に生まれる情と、札が揃っているいったところ。
世界の秩序と魔人、という構造は傑作・バンパイア十字界っぽいですが、永く素晴らしい作品になってくれることを祈るばかり。

続きも楽しみです。

2017年5月31日水曜日

感想 長谷敏司 My humanity

読んだ。大変面白かった。
伊藤計劃的なSFが読みたくて、ラノベ出身の筆者ならSF初心者にも読みやすかろうと手を出したが、大変良かった。
特に最初の二作、地には豊穣とallo,toi,toiが素晴らしい。
全てに描かれるのは発達した技術が社会を変え、個人を変える様。逆セカイ系とでもいえばいいのか、人類の手に余る技術が世界を変質させて、社会の一個人をなんらかの状況に陥れる。という感じ。
円環少女で徹底してロリヒロインばかりを書いてきた筆者がallo,toi,toiを書くというメタ的な興味深さもありこの作品がイチバン印象に残った。監獄というマッチョな理屈に支えられる暴力の世界に突然やさしさを持ち込めばそりゃそうなるだろ、という、後味の悪さも凄い。
Hollow Vision の煙草をスイッチに動く霧状端末、というアイディアがすげーカッコいい。ラストシーンの無常観たるや。BEATLESSも読まねば、と思った次第。
父たちの時間もまた、ラストシーンが寂しい。何年か前から流行っている感のある、人間というシステム・脳というモジュール、という考えで作られた物語はどれも得も言われぬ物悲しさがある気がする。話は暴走ナノマシンvs科学者という構図にも関わらずその内容は、生物的に考えた場合の『父性』が人類の制御を離れて自己進化を遂げたナノマシンを通して語られるという奇妙な短編。人間が感情を持ちながら生物である以上システマティックに理解できてしまい、感情があるからこそそれがナノマシン越しに見えた時に渦巻く感情はなんとも。

2017年5月6日土曜日

感想 上遠野浩平 パンゲアの零兆遊戯

上遠野浩平先生の最新作、パンゲアの零兆遊戯を読んだので感想を。
発売日に買ったのにずいぶん積んでしまった。あらすじは以下の通り。
エスタブと呼ばれる、未来視を持つと呼ばれる超人によって競われる“パンゲア・ゲーム”。勝者が世界経済を動かすと呼ばれるこのゲームに、かつて前人未到の連勝記録を持ちながら消息を消した伝説のプレイヤー・零元東夷が復帰する。彼を復帰させた少女・生瀬亜季と共に、生き詰まる死闘の幕が上がる。
いつも通りの上遠野浩平で、いつも通り面白かった。
複数シリーズを持つ筆者ですが、今回は独立したお話でした。一応登場する名称には同じ出版社から出ている『ソウルドロップシリーズ』のみなもと雫とサーカム財団が出てきますが、基本的に知らなくても問題ないと思います。
ストーリーは帯にあるような頭脳戦ではなく、未来を見るとはどういうことか、憧れとは何か、勝負とは何か、といった感じのお話。いつもの作品以上に抽象的で、超越者しか出てこないためわかりにくいですが、そこはこの筆者の独特の文体で上手く丸め込まれている気もする。
それぞれのエスタブとの勝負がそれぞれ戦略というより、別々の勝負論・勝利論になっているのも特徴的。そして終盤、零元東夷の正体が明かされてからの展開はお見事。
謎を残したまま死んだみなもと雫の意思を継いだ生瀬亜季が見つけた戦う理由、未来を見るという一つの道は上遠野浩平流のどうしようもないモノへの受け入れ方や、天才描写が満載で楽しい。
零元東夷のセリフも、一つ一つやたらと含みを持たせていて読んでいて楽しい。
ストーリーの構成や展開を楽しむよりは、セリフやキャラの行動からどこか読み手が欲している何かを見つけ出すような、そんな楽しさがある小説でした。
あと、表紙がやたらカッコいい。女性向け小説のようなイラストに流行りの歴史小説のようなフォント。

零元東夷の再登場を予感させるラストの描写に、作者の著作を全部買う一信者としては期待せずにはいられません。遺志を継ぎそれを果たした男が見つける次のゲームは、そしてみなもと雫が育てる生瀬亜季の未来は、楽しみにしています。

以上。

なんと、次の本が6月に出る様子。SFマガジンに乗っていた短編がまとまるようで、彼方に竜がいるならばといい短編は入手しずらいので有り難いところ。

2017年4月30日日曜日

ラノベ感想 林トモアキ ヒマワリ : unUtopial World 4

林トモアキ先生のヒマワリ4巻を読んだので感想を。
シリーズの各感想は3巻こちら1巻こちら
ヒデオに捕らえられたヒマワリへ、4年振りの邂逅を果たしたミサキ・カグヤの口から衝撃の事実が語られる。 「嘘です……、そんなのっ……!」泣き じゃくるヒマワリが知った真実とは果たして如何なるものだったのか? 世界が間違っていると怨嗟し、それでも勝負を挑んだ理由とは!? ミサキ・カグヤとヒマワリの運命が重なる時、 世界は新たな色に塗り替えられる。シリーズ最高潮――驚愕の急展開!!
面白かった。
前回、その正体を暴かれ川村ヒデオに捕らえられたヒマワリ。前作レイセンから登場する謎の少女ミサキ・カグヤ少佐の口から、ヒマワリとカグヤの正体が語られます。
断片的に語られていた通り、人類が機械に敗北し滅んだ未来からの来訪者だった二人。二人の語る誰も知らない未来から来た二人が出会ったからこそ、やらなければならないことがあるという結論は、なかなか面白い結論でした。
ついに始まった第二回聖魔杯本戦に挑む二人の姿が、いかにも林トモアキって感じて楽しい。制服姿のカグヤのイラストがいいですね。あと、ヒマ姫という名称はなんとなくエルシアを思い出したり。
テロリズムと自身の役割に取りつかれたヒマワリは、林トモアキ作品に共通する大きな力とその向き合い方みたいなところではまだまだ成長の余地があるというか、彼女がこれから士郎たちと再会してどんな未来を選ぶのか楽しみなところ。

一方でヒマワリを失った士郎とアリスは、ヒマワリを取り戻すために動き出します。
その前に立ちはだかった勇者に加護を与えるエリーゼの圧倒的強さが光ってました。レイセンから続く、『お・り・が・み』『戦闘城塞マスラヲ』でインフレしきった世界のキャラたちの圧倒振りが良いですね。貴瀬の再登場も嬉しいところ。
キリング・マシーンも再登場し、ついに精霊の庭が姿を現します。四大元素の精霊王との試練は、まあこれまでの作品で現れた試練からすれば新鮮味こそないけれど、ヒデオが精霊との関係で築き上げた信じ理解し捧げるということが別の形で表れていてよかったかな。
そしてなにより、前回から姿を現した二代目聖魔王にして我らが魔眼王閣下の活躍も嬉しいところ。眼光一つでロシア兵を引かせたり、未来の強化人間を警戒させたりしながら内心ビビっていたりと相変わらず。三柱の精霊たちに振り回されているようで何より。
前回の聖魔杯から五年でしっかり成長していて、ただの引きこもりだったはずが、いまや世界の謎を追うエージェントといった様子。マッケンリーへ啖呵を切ったイラストが悪役そのもの。

2017年4月23日日曜日

ラノベ感想 九岡望 『 ニアデッドNo.7 』

『エスケヱプスピヰド』シリーズの九岡望先生最新作、ニアデッドNo.7を読んだので感想を。
前作サムライオーヴァードライブがイラストレーターの炎上に巻き込まれて残念なことになってから約一年、待望の最新作です。
とにかく最高。是非是非多くの人に読んで欲しい。
目覚めた少年は、何者でもなかった。
“再葬開始”の合図と共に、いつの間にか持っていた火の粉を纏う刃を振るい、異形の敵を倒すのみ。
“境死者(ニアデッド) No.7”――赤鉄(アカガネ)。それが、彼に新たに与えられた名だった。
 なぜ自分は戦うのか――。No.6である美しき少女・紫遠(シオン)と共に、訳のわからぬまま死闘に身を投じる赤鉄は、やがてある事実にたどり着く。No.7の称号を持つ“先代”がいたこと、そして自分がその人物に殺され、No.7を“継承”したことを……。
 現代ダークファンタジー、開幕! ―電撃文庫公式サイトから引用―
とても良かった。
エスケヱプスピヰドから続く、喪って継承する物語。喪服姿の七人組がアンデッドと戦うという、わくわくが止まらない設定でエンタメど真ん中を突き進む傑作でした。
蘇った死者『境死者』が人を襲う亡者『外死者』を抹殺する『再葬』という設定がカッコいい。ネタ的には恐らく大槻ケンヂの再殺部隊や、その設定を使ったニトロプラスの凍京NECROが元でしょうかね。病院企業城下町での惨劇、というのはバイオハザードかな。
境死者は七人しか存在せず、境死者が愛する者を殺したときに継承が行われるという設定が哀しくて美しい。
サムライオーヴァードライブから続く刀剣アクションがクールで、記憶を失いながら狂戦士的な戦いを見せる前半と、継承された愛と魂のために戦う後半の対比もいい。
生き続けなければならない境死者は、死にぞこないながら戦い続けるためにその胸に愛を抱いている。という設定が心底好みで最高。
喪ってなお、受け継ぐ魂が胸にあるから、その愛のために負けない。少年漫画的な王道が、グロテスクな設定だからこそ輝く。このあたり上手い。
この巻のボスキャラである『鉄兜』の、残忍でありながらどこか騎士道精神を見せる姿が、敵でありながら武人というキャラクタで良い。彼の死に場所を求める、という姿勢はエスケヱプスピヰドから続く『死に場所を求める男たち』の姿で、ラストのセリフが切ない。

一方で萌えもしっかりしていて、パイルドライバー装備のゴスロリ美少女(猫好き)に巨乳引きこもり美女、ショタ老人にお姉さん系美女剣士と、ベタなラインの萌えやフェチがガンガンつまっています。
熱いアクションにしろ萌えにしろ、作者の好きなモノが詰め込まれている感じがいいですね。
ついでに、各章タイトルが楽曲名になっているのもオタクぽくていい。それぞれアムニージアック(レディオヘッド)、血の轍(ボブ・ディラン)、ミッシング・リンク(色々あるけどタイバニかな?)、汚れなき涙(THE BACK HORN)、リヴィングデッド・ビート(Children Of Bodom)、ネヴァー・ターン・バック(Crush40のソニックのやつ?)かな?

「だから、決着はまだここにいるオレ達がつけるんだ。生きるってのはたぶんそういうことだ」というセリフが最高でした。
相変わらずの作者の好み詰め込みまくりで、燃えも萌えも読み手の脳にガンガン響き、喪失と継承の物語が胸を打ちます。
最高でした。是非、続きが出ますように。
以上。

2017年3月21日火曜日

漫画感想 野田サトル ゴールデンカムイ10

ゴールデンカムイの10巻を読んだので感想を。ネタバレだらけなので注意。

白石奪還作戦のうまくいかなさに笑う。土方の容赦の無い奪還作戦が見事。
そして、じわじわとその正体が明かされていくキロランケが気になる。9巻の最後の晩餐パロディ絵では、ユダがキロランケだったからな。

そしてどんどん体がボロボロになる二階堂君に新武装。トンでも兵器の活躍に期待。
この回の、ギャグで全体を流しながら「戦争中毒」という鶴見中尉率いる第七師団の正体を明かす構成がお見事。
美しいモノが作れるのだから作ればいい、というジブリの風立ちぬ的な言葉が印象的。鶴見中尉の狂気の根底が明かされた感じ。

一方でアシリパを追う谷垣ニシパ、インカラマッ、チカパシの一家のドラマが面白い。
チカパシを通して、二瓶から受け継いだ「勃起の志(とんでもない言葉だが)」を生きざまにしていく谷垣がカッコいい。
家族だと言われたインカラマッの表情が可愛い。謎の多い彼女、どんな理由があってこの金塊争奪戦に関わっているのか。
そして、御船千鶴子から告げられた予言が気になる。
くーん、ってネタで言っていた白石だけど、キツネ(インカラマッ)の天敵の犬ってことだったのね、というギャグが伏線になっている地味に凄い展開。

牛山の背中に掴まるアシリパさんが可愛かった。
そして、アシリパさんの言葉に涙する杉元が切ない。容赦なく敵を皆殺しにしながら、一方で仲間を命がけで助けようともする杉元のアンビバレントな性質は、戦場に取り残された彼の心と本来のやさしさが同居しているからなんだろうな。

次も楽しみ。
次の巻は、尾形の壮絶な過去と変態けものフレンズと盛りだくさんになるはず。

以上。


2017年3月13日月曜日

ラノベ感想 物草純平 -『 終奏のリフレイン 』-

電撃文庫刊行、物草純平著の終奏のリフレインを読んだので感想を。
非常に良かった。おススメ。

ミス・ファーブルシリーズの物草純平が、前作・超飽和セカンドブレイヴから久々の新作。
今作はスチームパンク的な世界の「自動人形」モノ。
人間に恋することが出来ず、魂ある人形を求める主人公と謎の人形の物語。屍者の帝国的な世界と言えばいいかな?

主人公の機械しか愛せない人形技師・タスクが良かった。キャラクタの魅力がかなりいい感じ。オルゴール機関で動く歯車の世界観の描写が非常に魅力的でした。

今回も、いつも通り燃えるし萌えるし、何より筆者のキャラやストーリー、世界観へのフェティズムが見て取れるのがいいですね。

あとがきがかなりネガティブで、作家生命への不安に溢れていてなんとも。売れていいと思うんだけどな、と思ったり。イラストもいいし。


2017年3月11日土曜日

漫画感想 眉月じゅん 恋は雨上がりのように 7巻


恋は雨上がりのように、最新七巻を読んだので感想を。
恋した人は冴えないおじさん。
17歳少女の片想い叙情譜――
橘あきら。17歳。高校2年生。感情表現が少ないクールな彼女が、胸に秘めし恋。その相手は、バイト先のファミレスの店長。ちょっと寝ぐせがついてて、たまにチャックが開いてて、後頭部には10円ハゲのある冴えないおじさん。青春の交差点で立ち止まったままの彼女と、人生の折り返し地点にさしかかった彼の、小さな恋のものがたり。
ついにアニメ化決定。割と公式が宣伝しまくっていたので、アニメ化はするんだろうなと思ってはいましたが、楽しみですね。 原作のセリフを多用せずに絵と演出で見せる作風を、きちんと映像的に作り上げてくれることを期待します。

店長への思いを告げて距離が近づいた二人。そし前回、陸上への思いに揺れるあきらは店長を突き放してしまい・・・という七巻。
今回もとてもよかった。
色々話が動く一冊でした。
店長と旧友で売れっ子作家のちひろの話。あきらと店長一家の話。あきらが陸上への思いを整理し始める話。あきらの親友喜屋武はるかのサイドストーリー。そして、店長があきらへの気持ちを自覚する話。といった七巻。
あきらが店長とすごす内に、だんだん店長のボケに冷たく返すようになったり、恋に恋する時期が過ぎて先に進んでいる感じが良かった。
今回一番美しいシーンは、母親との温泉旅行で少しだけ陸上への思いを整理したあきらが、風に耳を当てるシーン。走る事への根源的な熱が少しそこに見えました。
店長やはるかが、あきらが頑なになってしまった陸上への負い目や上がりすぎた期待値を融かしてくれる瞬間を願わずにいられない綺麗なシーン。
七巻で一番好きなのは、店長と旧友・ちひろの会話。
「未練じゃなくて執着」って、本当に大切な言葉だよなー、と。届かない夢に未練で向き合うと悲惨ですからね。
今回、並行してはるかの恋愛模様も始まりましたが、これがやたらかわいい。褐色巨乳姉属性という盛過ぎな属性がいい感じ。勉強中は眼鏡っていうのもいいですね。

今回も面白かった。そして、ラストで思いを自覚した店長がこれからどうするのか。店長の作品はどうなるのか。あきらはまた走れるのか。色々動くだろう次巻、楽しみにしています。

以上。

2017年3月4日土曜日

映画感想 『劇場アニメ版 虐殺器官』

終わりかけの映画館に駆け込んで、伊藤計劃の遺した3作品のアニメ映画化企画ProjectItohの最終作を鑑賞したので、時期を逃した感ありますが感想を。

原作はずいぶん前に読み、その面白さにひっくり返り、著者のブログを読みつくしゲームをやったこともないのにMGSのノベライズを読んだのもいい思い出。アニメ版は前2作も観ております。
前の2作も、どちらもアニメ化するにあたり脚色・改変している部分があり、本作も同様にちょこちょこ改変部分があります。受け入れにくいものもちらほら。
しかし、一本のアニメ映画としては中々良かったかな、といった感想。

虐殺器官はトリを飾る(本来なら一番槍だったが)だけあって、一番面白かったと思います。DVDが出たら、ファンは観ても損しない感じ。
FPS的な視点の戦闘描写、ゴアな被弾描写、凄惨な戦場の描写、そしてSFギミックたち。どれもなかなか素敵でした。終盤のあるキャラの射殺シーンはかなりショッキング。SFなアイテムでは「空飛ぶ海苔」が好きなデザインでしたね。

ギミックや歴史改変の魅力満載の伊藤計劃+円城塔版ディファレンスエンジンである『屍者の帝国』や小説であることそのものがラストの展開の伏線である『ハーモニー』に比べて、かなりアニメとして受け入れやすかった感じ。
全体的にこのシリーズは、既存のアニメの枠組みに押し込めた感覚があって、伊藤計劃の楽しさというか個性というかはあまり伝わってこなかった。そこを共有したアニメの作り手ではなかったのかな。

以下、ネタバレあり

2017年2月20日月曜日

漫画感想 - 久米田康治 『かくしごと 3巻』 -

久米田康治先生の新作、かくしごとの3巻を読んだので感想を。
漫画家という仕事を娘・姫ちゃんに隠しながら生活する後藤可久士先生の日常を描く、親子の日常を描いたコメディの第3巻。

今回も面白かった。絶望先生のような毒や狂気はなく、改蔵や伯爵のような下ネタもない、ほっこりするコメディは健在。
10年以上漫画家をしているのに、長年背景を書いていなかったせいでキャラの顔しか書けなくなっていたり、業界の不思議な事情が描かれていたりと、久米田先生の実体験を踏まえたギャグがキレッキレで楽しい。
父娘モノコメディとしても相変わらず絶品で、お絵かきをすれば漫画家とばれるかもしれないけれどパパとして尊敬されたいジレンマで葛藤したり、父親としていい人でいたいと思って仕事を受けすぎて困ったり、いつも通りの甘いパパっぷりを発揮。
娘の姫ちゃんは相変わらずいい子で天然で、絶望少女たちとのシュールな日常も面白い。
カラーページの未来の姫ちゃんが家を訪ねるストーリーも気になるところで、カラーページには登場しない後藤先生が、今どうなっているのか、どうして姫ちゃんがこの場h祖にいるのか、ゆっくりと紐解かれていく様子からも目が離せない。
この書下ろしカラーページがあるおかげで、連載の連作短編コメディが、一冊の作品として纏まっている感覚で読めて楽しいですね。完成度が練りあがっている気がします。
紙ブログは相変わらずダウナーな久米田節が楽しい。
サイン会のエピソードは、なんだか絶望放送を思い出しました。懐かしい。
扉絵に戦場ヶ原の文字を見つけたりもして、シャフトのPVも絡んで、神谷浩史主演でアニメ化&ラジオ制作しないもんだろうか・・・

今回も大満足の一冊でした。
次も楽しみにしています。