講談社タイガ文庫の第一陣配本の一冊。講談社タイガはラノベの読者層のやや年齢高めあたりに狙いを定めた、エンタメ系の一般文芸文庫といった感じで創刊された新しいレーベルです。講談社ラノベ文庫からさらに新レーベルで差別化がどうなるか気になりますが、配本予定のラインナップが90年代から00年代からムーブメントを過ごしたラノベ読みとしては見逃せない作家ばかり。
では森博嗣の彼女はひとりで歩くのか? Does she walk alone? を読んだので感想を。
科学が発展した未来世界、科学技術の進歩により長命を実現した人類は原因不明の出生率低下による人口減少に侵されていた。減少する人類はウォーカロン(Walk-Alone)と呼ばれる人口生命体を発展させ人口減少による社会の破綻に対応していた。技術の発展と共にウォーカロンと人間の差は微笑となり、容易に両者を識別できなくなっていた。研究者のハギリは、ある日命を狙われる。彼を保護する女性・ウグイによれば、ハギリの研究が襲撃の原因ではないかとのことだが・・・
森博嗣が描くSF小説。アクションや謎解きはあるものの、本編のほとんどは人口生命体ウォーカロンと人間の差は何か考え続ける研究者ハギリを通して、人間とは何かと問う物語。
人間と変わらない様に設計された人口生命体と人間の差は何か?両者を隔てるものはあるのか? そもそもそれらを区別する意味があるのか?
そういった重い問いが淡々と描かれているため、派手なアクションや重厚な謎解きを期待すると退屈かもしれない。
しかし、問いへのハギリの答えはいかにも森博嗣らしい決着であるし、人間性とは? 命とは? という問いの現在の社会への問いは考えて損のない話だと思う。
また、延々と続く淡々とした問への思考だけではなく、こちらも森博嗣得意の軽妙で意味のズレた会話も面白い。上手く読み進める上での清涼剤となっていたと思う。
森博嗣は作品内の出来事を全て解説しないタイプの作家であるので、色々とわからずもやもやが残る終り方ではあるけれど、タイトルである『彼女はウォーカロンなのか?(Does She Walk-Alone)』には一応の答えは用意されているし、読み終えて考えると色々とわかることも多いので、謎解きも楽しいかもしれない。
文体と世界観が好きなのでとても楽しめました。
シリーズものなので、続きを楽しみにしています。