「この世にあるのはごまかしだけ――――」
山の中にぽつんとある病院に謎の病気で入院する不思議な少女「しずるさん」と彼女のお見舞いに訪れる友人の「よーちゃん」は今日も不思議でグロテスクな事件の話をします。なんと七年半ぶり! しずるさんシリーズの最新作です。
富士見ミステリー文庫から単行本での刊行を経て、星海社からの出版となりました。
出版社を変えての新装版としての刊行から、ついに文庫化されていなかった短編に書下ろしを加えた完全新作です。
雑誌を追いかけていない上遠野浩平ファンとしては、読めないモノと諦めていたので嬉しい驚き。
内容はこれまでのしずるさんシリーズファンなら大満足、上遠野ワールドのファンならさらに大興奮の一冊でした。
帯にはとってもミステリーでちょっぴり百合、とありますが、結構百合成分が大きい気が。
本質はミステリーではなく、その不思議な出来事に潜む社会のごまかしと、それを見抜くしずるさんと純粋でどこまでも正しいよーちゃんの会話劇。
誰もが目を背けるごまかしと、ごまかさないよーちゃんの対比が作者の言いたいことを代弁しているようで、相変わらず面白い。
優しさや弱さと強さの話は、上遠野ワールド共通のテーマなような。
よーちゃんが危険に突っ込むのを恐れたり、彼女のためだけに事件を解決しようとするしずるさんの我儘さがかわいくていいですね。
一方のよーちゃんも、しずるさんを理解して前へ進もうとする姿勢が健気。
世間を騒がす事件を通してひたすらイチャイチャするしずるさんとよーちゃんを楽しむ、いつも通りのシリーズでした。
他の上遠野作品とのリンクとしては、しずるさんの台詞の中にMPLSとは、のような部分があったり。ブギーポップに言及するところがあったり。
そして彼らがついに登場・・・
で、こっから先はネタバレなので未読の方はご注意を。