ずいぶん前ですが、wowowか何かで生放送された舞台を録画していたものを観ました。
三谷幸喜の芸術家をテーマにした三作目。
渡辺謙の久方ぶりの舞台出演。若いころは舞台も多く重ねていた渡辺謙ももはや世界的な映画スターの一人です。
作品のテーマである主人公二人は、世界中に多くのファンや信奉者がいる世界的なピアニスト、イラディミール・ホロヴィッツと、世界で最大の評価を受けるピアノ調律師、フランツ・モア。
ホロヴィッツが段田さん、フランツが渡辺さん。
登場人物はホロヴィッツとフランツと彼らの妻、計四人だけ。
そして舞台は九割方場面転換もなく、フランツの家の一室で展開されます。これはまあ、三谷作品なら珍しくもなんともないことですが。
世紀の天才演奏家であり奇人であるホロヴィッツがフランツの家にディナーに来て、という話。
ディナーが進む中で、奇人であるホロヴィッツと自信家の彼の妻に、彼らとは異なる価値観を持つ庶民であるフランツと彼の妻エリザベスが振り回される、というコメディ。
シリアスなポイントはあり、そこにいたるための彼らのドラマはあるものの、話の大部分はこの価値観の相違と立場の違いに振り回されるエリザベスとホロヴィッツと妻の板挟みにあるフランツの苦悩で構成されています。
三谷幸喜がよく描く男の友情が今作でも描かれています。
稀代の変人であり、老人でありながら子供のように繊細で我儘なホロヴィッツと、彼のピアノを長く調律しているパートナーであるフランツのコンビ。
好き嫌いが多く、我儘で、めちゃくちゃな人間でありながら、その天賦の才故に彼を憎むことのできない人のいい信心深いフランツを渡辺謙が好演していました。
彼の演技は少し濃いのですが、そこは舞台ですからぴったり合います。
やはり華がありますね。
段田安則もまた、年老いた我儘な天才を好演。
我儘な天才の我儘な言動を嫌味にならずコミカルに、しかしギャグにまで振り切らないようにバランスよく演じていました。
表舞台で輝く天才と、彼を支える裏舞台の天才。
二人の天才が仕事の場ではなく、プライベートの場で改めてお互いに出会うことで話を始まります。
彼の我儘、彼の妻の我儘、キレる妻、その板挟みにあう夫、とまあいわゆるホームコメディにおける嫁姑的な風情をとったコメディでありました。
全体的に役者の好演が光る一方で、あまり話そのものに魅力はなかったなかと。
史実にのっとったお話で、フランツ・モアは実在して確かに作中出てくるピアニストの調律を担当していますし、ホロヴィッツはとんでもない発言をしたりでいかにもな天才像の人物です。
作品の終盤に明らかになる彼らの娘ソニアについても事実ですね。
その分、それを組み合わせただけ、というか。笑い以外の部分がなんともあっさりしていたかなと思ってしまう。
長さの割にドラマが短いからでしょうか。
後は、天才を支えるという事実があまり大きくなっていなかったこともありますか。
面白かったけど、ちょっとうすかったかなと思いました。
フランツが信心深いエピソードも、私が見逃したからかもしれないけれど、なんともつながりが悪い。
死に落ちってのもね。
最後の炎上する船に救命ボートが一台だけの状況で、ホロヴィッツとフランツの二人のどちらかが救命ボートに乗れるとしたら? の回答はまさに天才と天才のつながりを表現していました。
ここはとても好き。
しかし、ネームバリューによる錯覚は絶対あると思うのですが、渡辺謙はすごい役者ですね。
以上。