2017年10月4日水曜日

秋田禎信 内藤泰弘 『 血界戦線 グッド・アズ・グッド・マン 』

秋田禎信による血界戦線のノベライズ第二弾、グッド・アズ・グッド・マンを読んだので感想を。
第一弾である前作『オンリー・ア・ペイパームーン』の感想はこちらへ

今作も最高でした。秋田禎信ファンも血界戦線ファンも、満足できるのではないでしょうか。
YMOのアルバム「増殖」を完コピした表紙絵がすごく血界戦線らしい。
今回は秋田禎信流ナンセンスが前回より多めで、前回のような感動路線もなく、戦闘描写は控えめで、ややマニアックな印象。
しかし秋田禎信が描く堕落王フェムトの姿と、本編では語られない堕落王にたいするレオの考えは中々興味深い。
血界戦線ファンなら間違いなくおススメです。

以下、発売日に感想を上げますが、ネタバレ全開なのでご注意を



いつも通りヘルサレムズ・ロットを混乱に陥れようとして防がれた堕落王フェムトは、ふと「僕が普通になるにはどうしたらいい?」と悩んでいた。その懊悩がHLに混沌をもたらす。フェムトが「僕は《普通》になることにした」という宣言をして以降、HLでは自分をフェムトだと信じ込む人が続々と現れて・・・
という今作。
血界戦線と秋田禎信作品の双方によく出てくる、トリッキーな超常存在を主軸に置いた作品。
なにもかも出来る堕落王フェムトが《普通》を目指すという、とんでもない展開で始まる本作。血界戦線の第一話でレオに企てを阻止されたフェムトが叫ぶ「普通だ!」というセリフを思い出します。
その普通になる手段が普通ではなく、自分の人格をクラウド化して800人近い人間に分散するという方法。しかしそれも他の魔術師に悪用され、防ごうとしたライブラの策も失敗し、と大波乱。
《普通》になっても普通では終われない、堕落王フェムトらしさがナンセンスなHLの描写と相まって楽しい。
ライブラの新メンバーの話の不条理な悲喜劇とか論理爆弾なんていうトンデモ兵器の発想とか、実に血界戦線的。
とにかく堕落王フェムトが魅力的でいい。
本編の彼はコミカルで底知れない、まさに超越者で、原作漫画最新刊では残忍な魔導士としての彼が見れてめちゃくちゃカッコよかったのですが、今作ではその超越者故の底知れなさと、ナンセンスを求めて世界をかき乱し続ける彼の行動理由が秋田禎信の解釈で語られます。
蟻の巣箱の例えが特に明確で面白い。13王の彼にしか見えない魔術の最奥に到った存在にしか見えない世界。あの世界に現界していない神性存在がいる以上、フェムトは自分が蟻の巣箱にいることを知ってしまった蟻なのかもしれない。「世界を左右してしまう圧倒的な存在」を見た結果が、堕落王と呼ばれる怪人の誕生だったのかも。
世界を滅ぼすことが簡単にできるのに、ゲームとしてそれを世界に課すという理解不能な存在。というのがフェムトが魅力的で怪人である所以ですが、そうする理由、みたいなものが微かに見えてとても良かった。
蟻の巣箱を手に入れてもその中に手を出さない存在。
ツェッドを他の人間と同一視していたのに《普通》になったとたんにそうできなくなるというのも、皮肉の利いたオチに繋がって良かった。
《普通》だから《普通》に倒せる、というのもいいし、それが兄弟弟子タッグだったのでもういう事なし。
世界の秘奥を知り尽くし、神の奇蹟を阻んで世界の無聊を慰めるフェムトには、「価値のないもの」がわからない。
結局、気高い存在が《普通》になろうと怠慢をすれば落ちていくだけで、しかも落ちてしまえば普通でない存在だったモノは普通にすらなれない、という超人もまた超人であることから逃れられない、という話だったのかな。
フェムトのキャラがとにかくよくて、原作での超人っぷりから少し離れて、面接をしたり魔術について語ったりと、ちょっとパーソナルな部分の怪人っぷりが見れて楽しい。

当然不満点はあって、まずバトルが地味。前回はまだ斗流血法の描写なんかもあったものの「技名を叫んで殴る」的な描写もない。
ライブラメンバーがレオ・ツェッド・ザップの三人がメインで、しかも結局ほぼレオ&ザップというのも不満。せっかくの第二弾、他のメンバーも見たかった。
一瞬しか出ないものの、クラウスのカッコよさったらなかった。あのワンシーンでここまでカッコよく出来るのは流石ベテラン作家。
スターフェイズも良かった。本編ではレオの前でそうそう出さないであろう、残忍な部分が出ていたのが印象的。魔術によって死を失い異形と化した魔術師を脅すという、激烈な残忍っぷりが良かった。
全体的にナンセンス強めで、超人を普通の人たちが見て考える、という物語でもある事から、前回のオンリー・ア・ペイパームーンのような感傷的な泣けるものでもなかったのも、欲を言えば残念。やや地味というか、マニアックというか。
秋田禎信作品らしさでもあるので秋田ファンとしては満足ですが、血界戦線ファンとしてはもっと派手なところが見たかったかな。

長々書きましたが、相変わらずの傑作ノベライズで、こんなオリジナリティと濃さをもったノベライズはそうそう出来ない貴重な作品。楽しませてもらいました。
アニメも2期が始まり、ノベライズもどんどん続いてくれていいのだけれど。
むしろ原作に逆輸入されて、漫画化とかしてくれないだろうか。
などなどと思いながら、非常に楽しみました。
血界戦線ファンは是非読んでください。フェムト萌えの方は必読。
アニメ、楽しみにしています。

以上

傑作ノベライズ第一弾はこちら。ザップとレオが子供と一緒に共同生活をしつつ、レオがザップという人間を知っていく、という物語。血界戦線の世界観を余すことなく味わえて、切ないラストは原作にはない味わい。こちらのが好きだったかな。感想はこちらへ

1 件のコメント:

  1. 元から内藤さんの考えた設定の上位の神性は多元宇宙を超越しそれこそオムニバースな次元の存在が星みたいにいる
    フェムトはそんな神性の規模の力を持ちで超越者で正体不明だがそれでも届かないとてつもない存在がいるなどの設定
    そんな部分をそんな規模の神性の力を利用した現実を改変する論理爆弾など非常にうまく再現したのは見事なものでした
    ゲームでキレて星消そうとする神性もクトゥルフぽい
    特にきなこを鼻に詰めて水中で息をするのくだりほんと面白かった
    内藤さんが監修して一発で通るというあたり流石ベテラン

    返信削除